退職者体験記
退職者体験記
目次
Chapter1 はじめに
Chapter2 前職
Chapter3 退職理由
Chapter4 1年7か月を振り返って
Chapter5 最後に。
Chapter1 はじめに
まず、この文章を書くにあたって「読んでくれる人に何が伝わればいいか。」を考えてみた。
読者からしたら、会社をやめろ!と言われたいわけでもない。
私が会社を辞めたことを自慢げに話すのを聞きたい訳でもない。
だから。
「今を考えるきっかけになればいいな。」と思った。
「今の環境が嫌で、退職を少し考えてきた。」そんな人たちに向けて書こうと思う。
また、読者を「未婚・若手社員(1~5年目)」を想定。
結婚している人やある程度役職を持っている人の立場は経験していない僕にはわからないし、体験していないことを書くのは違うと思う。
Chapter2 前職
・某メガバンク勤務。
・資産運用(投資や保険、相続)の個人担当業務。
・1年7か月勤務。
・業務内容
投資信託、保険、相続などを販売すること。
イメージとして、「今は銀行の預金においても預金は全く増えない。100万円を1年定期預金でおいても80円しか増えない世の中だ。
また、将来の年金もどのくらい貰えるかわからない。確実に今よりも減っていく。
つまり、現在の日本は将来に対して不安な感情を抱かざるを言えない状況なのだ。
これをイラストなどが入りわかりやすいように製本された冊子を使い、いかに将来に対してお金が足りないかを伝えるのだ。
そして、それに対しての対策として投資信託や保険などの商品を提案し、購入してもらう」というもの。
Chapter3退職理由
その時の率直な想いは「あ、もう無理だ。」と感じたこと。
「このまま勤めれば生きていけるけど、幸せにはなれな。」っと。
そこに至るまでの原因は、仕事内容、人間関係、上司、会社の風土など様々あるが、1番は仕事内容である。
理由は2点あり、1点目が「自分が疑問を持っている商品の販売である。」
前頁にざっくり仕事内容を書いたが、自分の仕事はお客さんを幸せにしない仕事なのだ。
投資という行為はお金を増やそうとするのだから、リスクがあり、抵抗感が強い人が多く、話は聞いても、やろう(購入)しようとするお客さんは少ない。
折角話を聞いてくれて投資商品を購入してくれても、私の中で「もっといい投資商品があるのに、こんなものしか紹介できないなんて。」という疑問が離れない。
さらに、商品の性質上、信用して買ってもらったにも関わらず、元本を割れてしまうことが多々あり、その損失分は全てお客さんが被る。
そのため、好きだったお客さんから「お前を信用して買ったのに、お金が減った。どうしてくれる??」というクレームがくる。
「自分が進めたい商品ではないのに、販売して、状況が悪くなったらお客さんからクレームが来る。」状況であった。
2点目が、収益を上げる預金が沢山あるお客さんへ「投資しませんか?」という内容の電話。
上司から「今日の電話は〇件ね。」と言われるが、「時間の無駄。」としか思えなかった。
お客さんの立場で考えてみると、いきなり銀行から「投資しませんか?」と電話がかかってくるのだ。
自分の中で自分が何をしているか理解ができなかった。
けれども、給料をもらっている以上は、収益を上げなければならない。
やりたくないとは思いつつも、電話しなければならない。
当然、モチベーションは低いため、怒られる回数も多くなる、
その度にストレスがたまる。またモチベーションが下がる。悪循環である。
そんな中、辞めるきっかけなる出来事が起きた。
それは、同期との研修だ。
そこで仕事に対する熱量の違いを実感した。
自分にとって、いいとは思えない商品を「いくら売った。」と彼ら生き生きしながら話すのだ。その時に、自分の中で気持ちが決まった
「ああ、俺はこんな生き生きとなれない。こういう性格の人がここで仕事をしていけるんだな。自分はここに合わない。」と。
そう決意し、すぐ行動を起こした。
だが、退職を決意したと同時に最大の壁が立ちはだかった。
それが親の説得だ。
なぜなら、転職先もないし、やりたいこともまだ何も決まってない。
辞める理由も漠然としている。
つまり、無茶苦茶な状態なのだ。
また、社会人になってお金を稼ぐ大変さ。
仕事柄、自分がここに就職するまでにどのくらいのお金がかかっているか。
子を持つお客さんとの話の中で、子供に対して愛情をもっており、自分がどんな風に思われていたのかを知った。
「もうちょっと続ければいいのではないか。せっかくそんな企業に入れたのだから、もったいない。」と言われるのでないか。
そんな思いがあり、緊張しながら親の電話番号を押し、電話をした。
コールが鳴り、親が出る。「どうした?」と。
世間話もせずに伝えた。
「会社辞めるから。1回実家に帰りたい。転職先も特に決まっていないし、やりたいこともわからない。ただ、今の環境にいたら幸せにはなれない。」
間があり、親は「わかった。お前がそう思うならそうなのだろう。とりあえず、帰ってこい。」と言ってくれた。
(後から聞いたが、僕がそんなに長く続けずに辞めるだろうと思っていたらしい。これは流石としか言いようがない。)
正直、親に止められたら、気持ちはかなり揺らいでいた。
でも、後押しをしてもらえた。勇気をもらえた。
そして、次の日上司に報告した。
結果は案の定、止められた。3時間以上1対1で止められた。
「君がこの銀行に入った理由は何だ?それは達成できたのか?まだならそれはもったいないと思わないか?俺にはわからん。それで、君が幸せになれるか疑問だ。」と繰り返し言われた。
けれども、その上司の必死の止めように上司自身の保身が見えてしまった。
部下が退職してしまうと自らの管理不足となり、評価が下がってしまう。
自分で書くのもなんだが、上司とそれほど仲が良くなかった。
その上司が自分を必死で止める理由が保身以外にあるのだろうか?
ただ、上司の言うことは、もっともなのだろう。
仮にもメガバンクであるため、給料は平均よりも間違いなく高い。
また、世間体、福利厚生といった面でかなりの優遇がある。
それはもちろん考えた。
生きていくためには「お金」は必要不可欠なものだし、それなしでは生きてはいけない。
今の会社にいれば、生活に関しては問題ない。
しかし、それらのメリットよりも遥かに銀行で働く意義が見出せないのだ。
数年先自分が同期のように楽しそうに、幸せそうにそこで働いている姿が想像できなかった。
Chapter4 1年7か月を振り返って
1年7ヶ月を振り返ってみて、自分を雇ってくれたことにすごく感謝をしている。また、銀行に入って良かったと思っている。
良かったと思えることが3つある。
1つ目が、成長できたこと。
日本の根本である税の知識や社会の成り立ちの本質、人との出会いがあり、成長できたのは、この銀行に入ったからであり、入らなければできなかった。
実際、学んだことを生かし、おばあちゃんの相続や家族の保険の見直し、実家が家業をやっているため、経理面の改善を手伝っている。
驚いたことが、保険の見直しをしていると、父も兄も保険会社が儲かるどれも業界では良くない商品として認識されている商品に入っていたこと。
接客の際にも感じたが、日本には金融知識が特定の人にしかないと改めて感じた。
2つ目が、会社に入り、様々なことを知り、経験し、新しい発見があったこと。
1つ例を挙げるとすれば、私は社会人になるまで海外に行ったことがない。
「海外=よくわからない。怖い」と感じていたためだ。
ただ、ある時、1度会社の同期と海外へ行った。アジアの小さな国だ。
初めての飛行機、初めての異国。初めての生活。
ありきたりではあるが、日本とは大きく違う文化に触れ楽しく、自分の価値感がひっくり返った。
日本よりも貧しい国が日本人よりも楽しそうにしているではないか。
豊かさ=幸福ではない。日本人の方がずっと心が貧しいと知った。
それからもちょこちょこ行くようになり、来月あたりに数か月留学予定だ。
1先ず、それがやりたいことの1つ。
3点目は、仲間の大切さを改めて実感できたことだ。
退職の決意をして、それを同期にも伝えた。(これもかなり緊張した。)
ある人は泣いてくれたし、ある人はすぐに電話をくれて、話を聞いてくれた。
「ああ、こういった仲間ができて本当によかった。」
その人達とは、今も連絡を勤務していた時と変わらず取っているし、食事にも行く。これらかも付き合っていけるのだろうなと思う。
また、少し脱線になるが、退職をしたことで今が楽しい。
あの自分との葛藤の中で生きるよりも、自分のやりたい用に動けることが嬉しい。
1度社会人を経験したことで「時間」の大切さをより知った。
何しろ、社会人の方ならそうだが、学生の頃より「自分の時間」が極端に少なくなり、1日1日が過ぎるのがとても早い。
出勤して、働いて、帰って夕食を食べて寝る。
これが週5日、60歳の定年まで続くのだ。
それを知った今は、以前よりも1日を大切に過ごすことができるようになっている。
Chapter6 最後に
今会社を辞めようか悩んでいる人へ。
自分の幸せのためにしっかり考えて欲しい。
今の自分は幸せか。
このまま続ければ幸せになれるのか。
退職することは、悪いことではない。
むしろ、よく踏み出したと応援されるべき行為であり、また、労働者の権利である。
その権利を使いたいのに、使わないのであれば、それはもはや雇用主の「奴隷」である。
仕事はあくまでも、自分の人生を幸せにするための1つ。
お金を得るための行為の1つであり、全てではない。
この世の中には、お金の稼ぎ方なんて色々ある。
新しい職場だって山ほどある。
もし、退職について悩んでいて、決意できない原因は何か?
転職活動?給料に対する不安?
様々理由があるが、確かなことは1歩踏み出さないことには現状は変わらない。
1度きりの人生。
若ければ若いほどリスクは取りやすい。
失敗したとしても、それは経験になる。
自分を形成する1つとなる。
いくらでもやり直しはできる。
動くなら早いほうがいい。
最後に、私は小説家の伊坂幸太郎さんが好きで、その作中に書いてある言葉で終わりたいと思う。
「人間には選択する瞬間がある。決断の瞬間だ。その時、試されるのは、判断力や決断力ではなく、勇気なんだと思う。決断力を求められる場面が、人には突然、訪れる。勇気の量を試される。」
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